向井秀徳には8歳年上の兄がいて、コアなPrinceファンなら皆知っている程の有名人らしい。
彼の8歳年上だと1965年生まれか、Purple Rainは兄20歳の時、彼はまだ小学校6年生くらいだろうか。
その兄からPrinceを強制的に聞かされ続け、1989年のLovesexy Japan Tourの時は佐賀から北九州までコンサートを観に連れて行かれ、今では彼自身が日本音楽業界屈指のPrinceフリークとして知られる程になった。
NUMBER GIRLでキャリアをスタートした彼は、 ZAZEN BOYS結成後にprivate studioとなるMATSURI STUDIOを設立、エンジニアやプロデュース、映画音楽も手がけるようになる。
こうしてキャリアを俯瞰すると、まるで80年代中盤のPrinceのようではないか。
そしてZAZEN BOYSの4枚目のこのアルバムではラップトップコンピュータを作曲に使用、それまでの作風から更なる広がりを魅せる。
やや強引ではあるが、これもBATMANのPrinceのよう、かも。
このアルバムの冒頭から唱えられる彼のキラーフレーズ「諸行無常」は、彼のキャリアと彼自身を象徴する言葉でもある。
鎌倉時代の名作に「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし」という散文があるが、NUMBER GIRLやZAZEN BOYSやラップトップコンピュータが「水」だとすれば、「川」は向井秀徳そのものだ。
このアルバムでは打ち込みのシーケンスが印象的な一方で、grungy感を抑えたストイックなギターサウンド、プロデューサのDave Fridmannさえどうタイミングを合わせているのかわからないという変拍子による緊張感溢れる構成、独特なヴォーカルと歌詞が織り成す唯一無比の世界観は何も健在。聞き応えのある一作だ。
もともとはPrinceの影響がどう作品に反映されているのか興味があり手に取った一枚だった。
確かに3曲目のWeekendのシンセリフは80年代のミネアポリスサウンドそのものだし、4曲目のIdiot Funkの2分30秒を過ぎたあたりからのギターソロはPrinceの手グセが憑依した気配を感じさせるし、そうした具体的な局面が何度か訪れるのだが、それ以上に感じたのはもっと抽象度の高い、Princeが体現していたような超個性や独走感だった。
Diversionやsamplingではなくinheritanceというか、注入された闘魂というか。
この作品が録音されたDave FridmannのTarbox Road StudioはNewYork州にあるのだが、NYは広く五大湖の一つErie湖の湖畔沿いにあるようで、湖の対岸はDetroit。
NYというとNew York CityのVelvet UndergroundやSonic Youthを思い浮かべてしまうが、Fredoniaのような大自然に近い場所にも、こんな作品の制作を手がける面白そうなスタジオがあるのだなぁ。