Prince / A Case Of You (NPG Records 2018)

pmPrinceはJoni Mitchellを少年の頃から好きで、Joniのライブで最前列に陣取ったり、ファンレターを何通も送ったりしていたらしく、Joniもそれを憶えているという。

特に1975年の「The Hissing of Summer Lawns」がお気に入りで、 美しいメロディとブルンジビートの先進性、アコースティックギターとシンセの音色が同居する様(さま)、一枚のアルバムの中で異なる要素が織り混ざるtapestryのような音像から、自身がプロとして目指す音楽の在り方を見出していたのかもしれない。

一方、きっとPrinceにとっての究極の一曲は1971年の「Blue」に収録されている「A case of you」だと個人的には推測している。歌詞の面でも大きな影響を受けているのではないだろうか。blueこのピアノの弾き語りが9月にリリース予定の「Piano & a Microphone 1983」に収録されることになった。

Princeがこの曲のカバーを初めて作品としてリリースしたのは2002年のアルバム「One Nite Alone…」。

このアルバムは真夜中のPaisley ParkのAtriumで月光と微かなcandleの光のもとで録音されたピアノの弾き語り集だが、「A case of U」は若干のドラムパートやギター、オルガンやコーラスのオーバーダブを含んでおり、純粋な「Piano & a Microphone」形式ではない。

実はPrinceがこの曲を人前で初演したのは1983年の夏、ギターのDez Dickersonがバンドから脱退した一ヶ月後のライブ、Lisa Colemanの幼馴染のWendy Melvoin加入後の初ライブで、セットリストの三曲目で披露した。

Lisaのキーボードと、Wendyのギターと、Princeのヴォーカルだけのシンプルなアンサンブルだ。

もともとLisaがPrinceと活動を共にするようになったのは、互いにJoniのファンという繋がりがあったからと語っているし、Lisa同様にJoniをリスペクトするWendyの誕生パーティーでPrinceはJoniをサプライズゲストとして招いたこともあるらしいし、そんな三人が初めて同じステージに立った時にJoniの曲を演奏したという事実は、Joniがこの三人の鎹の象徴であったかのように思えて仕方ない。

そんな三人でJoniの家を訪問した際、PrinceはJoniに向けて「A case of you」のピアノの弾き語りを披露したが、Joniは「いい曲ね、なんていう曲なの?」と訊ね、三人で「あなたの曲ですよ」とツッコミを入れたという微笑ましいエピソードもある程、この三人はJoniネタに事欠かない。

Joniにとってみれば、原曲のギターをピアノで置き換え、Prince独特のファルセットと共に再構築された「A case of you」は、Princeのオリジナルにしか聴こえなかったのだろう。

そんなPrince色に染め上げられたピアノ版「A case of you」が、完全なる「Piano & a Microphone」形式でリリースされるまで一ヶ月半となった。

録音された場所は、Princeが1981年初頭から4年間住んでいた通称「Purple House」、又の名を「The Kiowa Trail Home Studio」という。

Princeの住居兼studioで居間がスタジオになっており、2FにあるYAHAMAのピアノは居間までケーブル接続され、Princeは自由にピアノの演奏を録音した。その録音カセットがremasterされ、アルバムとしてリリースされるのだ。

「Piano & a Microphone」形式ということで言えば、「1999」のB面に収録され、後にAlicia Keysにもカバーされた「How Come U Don’t Call Me Anymore」が恐らく最初にリリースされた作品ということになるだろう(こちらの録音場所はLos AngelesのSunset Sound Recordersなので勝手はやや異なると思うが)。

Princeのこうした側面が好きなファンは多いだろうし、期待感を持って待っている人も多いだろう。1999個人的にもPrinceのprivate recordingを心待ちにする感覚は、かつて西新宿にbootlegを買いに通っていた学生時代のようで懐かしい。

まさか、その種の作品がオフィシャルでリリースされる時代になったとは。

Princeが天に召されなければ許されなかったことで、複雑な心境に無いわけでは無いが、今は楽しみに待つこととしよう。

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