Beck Record Club covers INXS’s Kick

C1DA4BFB-0EFC-4378-8A51-440535BFCAF1欧米で成功したAustraliaのバンドや音楽家の中で、INXSはその代表格だろう。

Michael Hutchenceのカリスマ性が時にJim Morrisonの再来とも言われ、Hutchenceの死後には「A Tale of Two Brothers: Jim Morrison & Michael Hutchence」という書籍まで出版された。

サウンド面でDoorsとINXSは全くテイストが違うし横並びにするのはどうかと思うが、Original SinやDevil Insideで扱うテーマをはじめHutchenceの歌詞には(Jim Morrison程ではないにしろ)非凡なものを感じるし、ステージパフォーマンスの映像を見るとJim Morrisonのように見える瞬間もあるし、破天荒で若くして他界したエピソードなど、類似点は案外多いのかもしれない。

1987年のアルバム Kick は発売2年で1000万枚、累計で2000万枚を売り上げている彼らの代表作だが、これをBeckが自身のサイドプロジェクト Beck Record Clubで丸ごとカバーしている。

Beck Record Clubは、Beckが知り合いのミュージシャンを集めて1日でアルバム1枚をカバーするという2009年に開始した実験プロジェクトで、これまでVelvet Underground & Nico、Songs of Leonard Cohenなど5枚のアルバムをカバーしており、Nigel Godrich、MGMT、Devendra Banhart、Thurston Moore、Tortoiseなど錚々たる顔ぶれ参加してきた。

Kick のレコーディングにはSt. VincentことAnnie Clark、Liars、あのOs MutantesのSergio Dias、Charlotte Gainsbourgのツアーから戻ったBrian LeBartonらが参加、軽快なカッティングギターとスピード感が印象的なINXSサウンドを全く異なるテイストでリビルドしている。

ちなみにこのアルバム選んだのはLiarsのAngus Andrewとのこと。

特に面白く仕上がっているのはAngus AndrewとAnnie ClarkのデュエットするNew Sensation、Beckがボーカルを担当したダウナーでダークなDevil Inside、Annie Clarkが歌うCalling All Nationsあたりか。

全体的に言えるが、Annie Clarkの存在感が素晴らしい。13767CF5-8F79-45D5-A600-255C472F2880この作品のユニークさへの彼女の貢献は大きいだろう。

なお2019年8月現在Beck’s Record Clubのホームページはクローズしているが、これらの作品はVimeoやYoutubeなどの無料サービスで視聴可能。

2010年前後のBeckは他人のアルバムを1日だけでリビルドするRecord Clubを手がけたり、楽譜だけの(他人が演奏することを前提とした)新譜 Song Reader を発表したりと、作曲者、プレイヤー、リスナーの関係性をシャッフルするような、音楽作品に纏わるプロセスのあり方を問い直すような活動に意識的に取り組んでいた。

Beckは1970年生まれの男性ということで日本の風習で言えば、2010年から2012年が厄年ということになるが、この頃ちょうど怪我や体調不良の治療もしていたそうだ。

そう考えるとKickのカバーは、それまでの自分自身の見直しや転機の真っ只中にある厄年男のドキュメンタリーと言えるのかもしれない。

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