Kiziah Jonesのデビューは鮮烈だった。
当時はLenny KravitzやTerence Trent D’Arbyといったpost-Prince的な若いソロアーティストが登場し始め、Kiziah Jonesもその潮流にいたが全く異なるスタイルを持っていた。
LennyやTerenceはSSWであるだけでなくマルチプレイヤーであり、アレンジャーやプロデューサーの顔も持っていたが、Kiziahはギター一本で、時にはギターをパーカッションとしても使い、清々しい程のストリート感覚を放っていた。
Nigeriaの首都LagosでYoruba族酋長の息子として生まれた彼は、留学先の英国Millfieldのpublic schoolをドロップアウト、Londonでキャリアをスタート後にbuskerとなり、Parisで見出されデビューしたコスモポリタンだ。
欧米で人気の出た後は次第にconceptualな作風に移行し現在は寡作な印象が強いが、2017年に久々に肩の力が抜けたaccousticな作品をリリースしている。
Rugged Covers と名付けられた4曲入りのEPはvocalとaccoustic guitar、控えめなdrumsだけ録音されており、Prince、Stranglers、Fela Kuti、Antonio Carlos Jobimのカバーが収録されている。
Lead trackはPrinceのJoy In Repetitonのカバー。
KiziahはLondonでキャリアをスタートした頃からPrinceの曲をカバーしていたらしく、比較的最近のライブでもPirnceの代表曲 When Doves Cry を演奏する様子をYoutubeで確認できるが、busker感覚溢れる独特なアレンジが面白い。
一方、このEPでカバーされたJoy In Repetitonは通好みの隠れた名曲なのだが、どちらのカバーもリスペクトに溢れ、彼は筋金入りのPrinceフリークなのだろうと感じさせる。
Joy In Repetitonは、Revolution解散後に3枚組の大作 Crystal Ball に収録される予定だったが、レコード会社から2枚組にするよう要請を受けたことからドロップされ、3年後にPrince3本目の映画 Graffiti Bridge のsound trackに収録された。
映画でこの曲が流れるシーンは、歌詞の世界観がそのまま視覚化されているのだが、ヒロインのIngrid Chavezと演じるミュージカルタッチの映像は今ひとつの出来でガッカリした記憶がある。
Poetry readingのようなヴォーカル、キャリアの中でも絶品クラスのギターソロ、ゴスペルのような分厚いspiritualなコーラスライン、この曲の奥深さ、あらゆる良さが台無しになっている感じなのだ。
KiziahはLouis Vuitton Foundationで行われたインタビューの中でこの曲のコーラスラインが好きと語っているが、私もそう思う一人で、それに相応しいもっと良い映像が作れなかったものかと残念に思う。Kiziahバージョンに話しを戻すと、歌詞の良さやお気に入りのコーラスワークの美しさを活かしたunpluggedなアレンジはシンプルながら中々の中毒性がある。
Prince自身もこの曲を気に入っていたと思われ、ライブでも度々演奏されてきた。
私が最もおすすめするのは1996年12月に行われたEmantipationリリース記念ライブでのライブバージョン。
Kat Dysonの呪術的かつ静謐なバッキングギターとKirk Johnsonのパーカッションによる不思議なアレンジは、このライブ以外ではお目にかかったことがない。
また、ベースのRhonda SmithとKat Dyson、女性陣二人によるコーラスワークはRevolution以来だと思われ、Princeの声は女性コーラスと絶好の相性だと、今になってみると感じてしまう。