Brazil出身のEgberto Gismontiはギターの超絶テクニシャンであるだけでなく、Keith Jarrettが嫉妬する程のピアノの腕前を持つマルチプレーヤーであり、コンポーザーやプロデューサーとして自身の作品以外も多数手がけ、自ら音楽レーベルを運営する鬼才。
これほどタレントに恵まれた音楽家はブラジルだけでなく、世界中を探しても中々いるものではない。
多才であるがゆえに、アルバム単位に作風が異なるのだが、私が好きなのはGismontiがソロで弾くピアノ作品。
その代表作が、Keith Jarrettに於ける「The Köln Concert」のようなピアノアルバム「Alma」。
もともとは1986年にEMIからリリースされた初版から1曲抜き、1993年のSão Pauloでのライブテイクを5曲追加して1996年に自身のCarmoレーベルからリリースされた。
過去の作品の中でアンサンブルを変えて何度も録音されてきた名作から、このアルバムで初めてピアノでリテイクされたものまで様々だが、Gismontiの自由奔放な精神と理知的な鍵盤捌き、ブラジル音楽ならではの爽やかさとヨーロッパ印象派のような繊細さ、美しさはアルバム全体に通底している。
最近かけっぱなしにしても疲れないアルバムが気に入っていて、このアルバムもサムイ島のホテルの中で本を読みながら小さな音でずっと流していた。
また、イヤホンを通して聴くと、ほんの微かに、薄皮のようにオーバーダビングされているシンセサイザーの音に気づく。
こうした一手間感は Gismontiらしいが、他のアルバムのような過剰さが全くなく、静かなピアノの音色にアンビエンスをそっと添えるにとどめられており邪魔にならない。