Prince作品とストリングス・アレンジは、切っても切り離せない。
80’s のメインストリームで、あれだけ大胆にストリングスを導入したサウンドはなかった。
最も売れたアルバム’Purple Rain’では’Take Me with U’やタイトル曲のoutro、Paisley Park Recordsの1st Catlog ’Aroud The World In A Day’では’RaspberryBeret’、’Purple Rain’のoutroから地続きのintroが配された’The Ladder’など、時に不協和音が同居する独特なアレンジが印象的だった。
‘Around The World’と同じ1985年、同レーベルからリリースされたThe Familyの1stアルバムでも大胆にストリングスが導入されているが、実はその間に切れ目がある。
1985年4月リリースの’Around The World’まではThe RevolutionのキーボーディストLisaの弟Davidなど弦楽演奏家が名を連ねる一方、同年8月リリースのThe Familyの1stからは西海岸の大御所、Clare Fischerがオーケストラアレンジャーとして一人クレジットされるようになる。
‘Around The World’までのストリングスがサイケ感があるのに比べ、Clare FischerのアレンジはJazzyかつエレガント。
後にSinéadO’Connorがカバーしたドラムレスバラード’Nothing Compare 2 U’もClare Fischerがアレンジャーだ。
それ以前より洗練度と複雑さを増し、Princeの楽曲に深みを与えた。
続く’Parade’が最高傑作の一つとされる所以は、Prince自ら数年前に形にしたばかりのミネアポリスサウンドを自ら早々に完全離脱してしまった進化のスピード感やオーラを、奇跡的なドキュメンタリーのようにパッキングした点にあるのではないか。
そのスピード感と前衛化の実現を、アレンジ面から強力に支援したのがClare Fischerなのだと思う。
‘Parade’はどれも素晴らしいが、Beach Boysの’Pet Sounds’収録’Let’s Wait A While’をよりエレガントにしたような’Venus De Milo’など西海岸を代表するアレンジャーClareの真骨頂、始まりから終わりまで美しい。
駄作とされる映画’Under The Cherry Moon’を注意深く見ればわかるが、Paisley Parkの傑作、Jill Jonesの1st singleのイントロが挿入されている。
Jillのソロデビューは1987年だが、楽曲は85年あたりに録音されていたのだろう。この曲のオーケストラアレンジもやはりClareだ。
この時期のPrinceとClareのコラボレーションはどれも必聴だ。
Princeを敬愛してやまないD’angeloはその関係を継承するように、Black MessianでBrent Fischer(Clare Fischerの長男)をストリングアレンジャーに迎えている。
一方、プレイヤーとしてのClaire Fischerの作品は全く別の印象を与える。
特に、ドイツMPSレーベルに残したラテンフレーバーのJazz Fusionアルバム群ではBreezyなエレピ、フルート、パーカッションがトレードマーク。
そのダイジェストをこの時期のベスト版’Latin Patterns’で聴くことができる。
デビュー初期に Evans派ピアニストとして評判を上げた1st、Bud Shankとの共作など、若きピアニストとしての作品群も素晴らしい。
Antonio Carlos Jobinのカバーでほぼ埋め尽くされた’So Danco Samba’も爽快感のある佳作である。