旧ソ連はジャズの宝庫で、特にピアニストは個性派技巧派揃い。
旧ソ連から独立したアゼルバイジャンにも、そのようなジャズピアニストが二人いる。
一人はTofig Guliyev、もう一人はVagif Mustafazadeh。
Tofig Guliyevは83歳まで生き、特に映画音楽の世界で大きな功績を残した。
Vagif Mustafazadehは何枚かのオリジナルアルバムを残し39歳で若くしてこの世を去った。
バクーのヘイダルアリエフセンターにアゼルバイジャンの歴史を紹介するコーナーがあったが、二人とも国の歴史に名を刻む音楽家として扱われていた。
マニアが探し求める辺境ジャズのような捉え方をしていたが、本国アゼルバイジャンでは国宝級の存在であることを認識。
Vagif Mustafazadehの作品はデジタル化されベスト版もリリースされているが、そのタイトルにも流用されている1974年のアルバム「Jazz Compositions」は彼の代表作だ。
Discogsなどで確認してみると、旧ソ連では何度もジャケットを変え、収録曲をマイナーチェンジしながらリイシューされてきたことがわかる。
旧ソ連で相当売れたのだろう。
天才音楽少年だったVagif Mustafazadehは若いうちから頭角現わし、1960年代、アメリカでのジャズのモーダル化の影響を受けながら、アゼルバイジャンのモーダルであるムガーム(Mugham)を融合していった。
ムガーム(Mugham)は21世紀に入りユネスコによって無形文化財に認定された複雑なアートフォームだ。
1970年代にVagif Mustafazadehが融合していったそのスタイルはJazz Mughamと呼ばれた。
トリオ形式で録音されたこのアルバムは、Bill Evans、Keith Jarrettなどを聴いている気持ちにさせる部分もあるが、あちこちにムガームの独特の音階や即興が散りばめられ、欧米ジャズにはないスパイシーさを放つ。
全く継ぎ目を感じさせない音楽的な融合度合いが見事な一方、コーカサスなどホームグランドの地名を曲名に織り込む様子からは、子供の頃からムガームを内面化していった自尊心も感じさせる。