ある世代以上でプリンスをリアルタイムで聞き始めた人の殆どは、Purple Rainがきっかけに違いない。
Princeの死後、何種類も出版された追悼本を読むとそう感じる。
かくいう私もその一人だ。
Let’s Go Crazyがチャートを駆け上った1984年の夏休み、初めて一人で井の頭線に乗って渋谷のタワーレコードに行った。
当時は東急ハンズそばのサイゼリアの場所にあり、輸入盤LPは1890円位だったか。
このアルバムを買って、最も気に入ったのが’I Would Die 4 U’だった。
どぎつい曲が多い中、最も耳当たりが良かったのだ。
ヒラヒラしたブラウスを纏いながら、’君のために死ねる’と歌いあげる2分50秒。
少女漫画の主人公のような存在感。
曲のキャッチーさに加えて、そうした要素も印象的だった。
それからだいぶ時間が経ったが、ヒラヒラキラキラした雰囲気ではなく、歌詞が割と哲学的だなぁと思い始めた。
他者との関係や自分の在り方を問い直す投げかけのようなニュアンスを感じるのだ。
I’m not a woman
I’m not a man
I am something that you’ll never understand
I’m your conscious
I am love
All I really need is to know that you believe
‘I’や’You’を自分や自分以外の人に置き換えて解釈するのも楽しい。
メキシコのマリアッチ・スタイルで大らか且つオーガニックに奏でられるこのカバーバージョンは、原曲には無い雰囲気を放つが、逆に歌詞はとてもフィットしていると思う。
Mariachi El Bronxはアメリカ西海岸のパンクバンド’The Bronx’の別プロジェクト。
このプロジェクトのアルバムにはLos LobosのDavid Hidalgoも関与しているので、この曲にも参加しているかもしれない(そういえば、David Hidalgo自身もLos Lobosとは別にLatin Playboysというプロジェクトを持っている)。
このカバーバージョンは、雑誌SPIN付録のPrinceトリビュートアルバムで発表され、後にフランスのセレクトショップ’Colette’がピックアップしコンピレーションアルバム’Colette No.10’に収録した。