エストニアのFrotee Recordsが放つ傑作コンピレーション。
旧ソビエト時代、エストニアのポップミュージシャンにとってラジオ局は作品を録音できる数少ない場所だったという。
そのためラジオ曲の倉庫には大量のアーカイブがストックされており、その中からFortee Recordsが厳選した8曲をコンパイルしたのが本作だ。
MellowなAOR、ele-pop、soul jazzなど様々なマテリアルがセレクトされているが、DJ的審美眼でしっかりと統一感がある。
Track1のPäikeselaikは、Hawaiian AORの傑作 Seawind “Light The Light”のカバー。
Froteeから7inch版がReissueされた女性グループElektraが、Kooli-Prii名義で活動していた1981年のレコーディング。
この曲自体はAORというよりもDiscoテイストのほうが強く、太いベースラインが印象的。
Track2はRaivo Tammik Instrumental Ensembleを率いていたRaivo Tammikの奥さん、Kristi Tammikのキラーチューン。
渋谷系好きな人はハマる一曲だろう、1974年のレコーディング。
続いて波の音から始まるtrack3のBalearic trackは、Sven Kullerkuppによる1990年のレコーディング。
A面はこの曲がここに配置されていて流れがすごく良く感じる。
A面ラストはほとんど情報がないというSalamanderの1986年の録音。
B面のスタートはEesti Raadio EstraadiorkesterによるMarvin Gaye ‘I want you’ のjazzyなカバー、1979年レコーディング。
印象的なピアノリフの後、ヴォーカルラインを取って代わるLeembit Saarsaluの力強いsaxが印象的。
次はTornadoによるKraftwerkのDas Modelのカバーで、1979年の録音。
シンセもドラムマシンも使わずに人力演奏とエフェクターを駆使したコズミックサウンドが面白い。
そしてタイトルトラックは1986年のTiit AunasteによるValgusesse(into the light)。
Tiitはコンピュータによる音楽制作が始まった頃にエストニアで実践していた数少ない一人だそうで、彼にKorg Polysixを貸したIgor Garsnekと一緒にラジオ局のスタジオに入り、8トラックレコーダーで録音したのがこの作品だという。
Spacyでdreamyなアナログシンセの質感が素晴らしい一曲。
締めは80年代のブレイクしたバンド、Radarの1977年のレコーディング。
Youtubeで検索すると様々なアーティストがカバーしていることがわかり、きっとエストニアのポップス史に残るマスターピースなのだろう。
さりげない途中のシンセサイザーソロは、驚いたことに手作りのシンセサイザを使ったものだという。
縁あってFrotee RecordsのMartin Jõela氏から直接購入できたこのアルバム、聴くたびにエストニア旅行を思い出すのだろう。