かつて白金台にPatrice Julien氏が手掛けるCentre France des Artsという会員制レストランがあった。
90年代の半ばに彼のような料理を出す店は他になく、ハーブやスパイスの使い方、素材の合わせ方や料理温度の考え方等あらゆることに衝撃を受け会員になってしまう程だった。
まだ若い当時の自分にとって決して安い店ではなかったが、料理人の彼をリスペクトしていたので、機会を見つけては通い、彼の料理を楽しんだものだ。
会話をした中で、食材を仕入れる場所としてナショナル麻布スーパーマーケットの話を聞いて以来足を運ぶようになって、早20年以上経つ。
ネット通販のない時代、例えばフランスのピュレイ産の緑レンズ豆はここでしか買えなかったし、そういう珍しいもので溢れていた。
行くたびに新たな発見のある特別な場所は、ネットの時代で個人が海外から直接買い付けができるようになった今、当時程の驚きは無くなったが、日本の一般的消費者向けのスーパーとはテイストが全く異なっているので、今でも楽しめる場所であることに変わりない。
久々に足を運んでみて気づいたのは、品揃えが変わったというよりも自分の視点が変わったこと。
若い頃はスパイスや豆、瓶詰め等に目がいっていたが、今の自分にとっては生鮮食品やチーズ、ワインや水のコーナーが面白い。
海外に行って現地のスーパーマーケットを観察するのが楽しみなのだが、同じような視点で観察するようになったのかもしれない。
このスーパーの一番のユニークさは、チーズコーナーの異常なまでの充実ぶりだろう。とある壁面が端から端までチーズで埋め尽くされている。
何種類あるのかわからないが、あらゆる国のあらゆる種類のチーズを手にすることができるのではないだろうか。
あと注目したのは水で、何種類か炭酸水を購入した。
まず英国Hildonのsparkling water。南部Hampshire地方の地下約120m、自然ろ過された鉱水を水源から直接ボトリングしている。
1989年に水源が発見されて以来計画的限定的な採取に止められているプレミアム水で、エリザベス女王の誕生日会でも振舞われている。
日本ではRitz Carlton Tokyo 、Conrad Tokyo、The Peninsula Tokyoなどで使われているらしい。
飲んだ印象としては、強炭酸のようなインパクトはなく、炭酸の粒は小ぶりでスムースさを感じつつも、しっかりとした存在感と持続感がある。飲みやすさと炭酸感のバランスが非常に良い。
次も同じく英国、Harrogateのsparkling water。北部の温泉地mYorkshire地方で1571年にエリザベス女王一世の個人医によって発見された鉱水で、1740年にボトリングされたという英国最古の天然水だ。
個人的には炭酸の粒は小ぶりで存在感や持続感も薄く、炭酸が苦手な人が飲む炭酸水といった印象。炭酸好きな人には物足りないだろう。
最後はフランスのOrezza。ナポレオン誕生の地Corsica島のRapaggio渓谷にある炭酸水脈は古代ローマ時代から名水地として知られ、近代では湯治場としても人気だったという。
鉄分、カルシウム、重炭酸塩を多く含む天然炭酸水は生産量が少なく幻の水と言われてきたそうだが、口当たりが非常に良いのに加えて炭酸の存在感と持続感もしっかりしておりオススメの一品かもしれない。
他にも色々とあったので、機会を改め訪問してみたい。